InstagramとYouTubeのブロガーによる宣伝から、なぜ購入するのか? 信憑性とパラソーシャル・インタラクションが購入意図に与える影響

紹介論文: SOKOLOVA, K. & KEFI, H. 2020. Instagram and YouTube bloggers promote it, why should I buy? How credibility and parasocial interaction influence purchase intentions. Journal of Retailing and Consumer Services, 53.

サマリー

本論文は、インフルエンサーによる製品・サービスのプロモーションがフォロワーの購入意図に与える影響を、インフルエンサーとフォロワーの類似性、インフルエンサーの身体的魅力、社会的魅力に基づく、情報発信の信憑性及びパラソーシャル・インタラクションから考察した論文である。

フランスの4人のファッションブロガーのYouTubeとInstagramにおけるプロモーションを視聴した女性フォロワーにおいて、その購入意図に与える影響が分析された。結果として、情報発信の信憑性とパラソーシャル・インタラクションが購入意図に与えるポジティブな影響が確認された。

また加えて、フォロワーの年齢やインフルエンサー毎での比較がなされ、プロモーションする内容やターゲット顧客の年齢によって、信憑性とパラソーシャル・インタラクションの形成要因に差が出た。ここから、企業のインフルエンサー・マーケティング戦略やインフルエンサーのコンテンツ作成方針に対する、フォロワーの購入意図の観点からの知見が得られた。

本論文は、フランスのファッションブロガーのプロモーションに対する女性フォロワーを対象とした限定的な研究であるが、その他の業界やフォロワーのジェンダー、年齢を考慮すると、より複雑な関係を抽出できることが予想される。

インフルエンサー・マーケティングにおけるターゲット顧客に合わせて、どのように製品・サービス及びブランドのプロモーションを行うかといった包括的な議論に対するひとつの視点として、信憑性とパラソーシャル・インタラクションの観点が活用できる。

1. 理論的背景

情報の送り手が受け手に対して説得的なメッセージをどのように伝えるのかという点に関して、コミュニケーション研究では、送り手の魅力や送り手と受け手の類似性といった観点からの影響が確認されてきた。マスメディアでのプロモーションにおいて、情報の受け手がどのようにその情報を受け取るかに対しても、情報発信者の性質が影響を与える。

現在、ソーシャルメディア上でのインフルエンサーを活用したマーケティングが活発に行われているが、そのプロモーション効果において、インフルエンサーとフォロワーの関係性が製品やサービスの購入意図にどう影響を与えるのかについて注目が集まっている。

本論文では、インフルエンサーであるブロガーとフォロワーの関係性とフォロワーがプロモーションを受けて知覚する購入意図を、コミュニケーション分野の説得のモデル(精緻化見込みモデル)とメディア研究のパラソーシャル関係から説明する。

具体的には、フォロワーが認識する購入意図への影響は、プロモーションするブロガーの信憑性(credibility)とパラソーシャル・インタラクション(PSI: parasocial interaction)が関係するとみる。

信憑性とは、情報の受け手が情報発信者に対して偽りのない情報を発信していると思えるかといった程度を表す概念で、フォロワーが認知する発信者の信用性(trustworthiness)や情報の信頼性(reliability of the source)に関係しているといわれている。

PSIとは、メディア研究の分野から提案された概念で、マスメディアにおける、ラジオやテレビの司会者といったパーソナリティに対して、その番組を視聴する聴衆が、パーソナリティと疑似的な知り合い・友人のような関係性 (パラソーシャル関係) を築くことを説明する。

従来のマスメディアは情報伝達が一方向であったが、視聴者はパーソナリティと自身とが実際の交流を持っているような錯覚を感じる場合があるという。

現在のソーシャルメディアにおいては、コメントやチャットといった形でフォロワーがインフルエンサーに対してコンタクトを持つことができるが、インフルエンサーは多数のフォロワーを持つ場合、フォロワーと限定的な交流しかできず、このようなパラソーシャル関係がソーシャルメディアのパーソナリティにおいても存在していると考えられる。

情報の送り手と受け手のパラソーシャル関係は、PSIを通して築かれ、PSIは、インフルエンサーとフォロワーの類似性/ホモフィリー、インフルエンサーの身体的魅力及び社会的魅力(友人関係を持ちたいか等)から形成されるという。またこの類似性や身体的魅力は、情報発信者の信憑性にも影響を与えるという報告がなされている。

本論文では、インフルエンサーのプロモーションにおいて、信憑性とPSIがフォロワーの知覚する購入意図にどう影響を与えるのかの仮説検証が行われた(図表1)。

 


図表1 リサーチモデル(矢印は概念間の関係性の仮説を表す)  * 紹介論文に基づき筆者が作成

2. 研究の結果

本論文では、フランスのファッションブロガー4人を対象として、そのプロモーションがフォロワーの購入意図に与える影響をWebアンケート調査で検証した。

調査対象のフォロワーは女性であり、全体で1209件の回答が得られた。全体のデータに対する結果としては、購入意図に対して、信憑性とパラソーシャル・インタラクションがポジティブな影響を与えることが確認された。
また、インフルエンサーの身体的魅力は信憑性に影響を与えたが、PSIへの影響は統計的に支持されなかった。また、この関係性に対してフォロワーの年齢での比較が行われ、若年層(GenZ: 1996年以降の生まれ)のみ、社会的魅力のPSIへの影響が統計的に支持されなかった。また、インフルエンサーの比較では、一人のインフルエンサーのみ社会的魅力のPSIへの影響が統計的に支持されなかった。

これはフィットネスやヨガといった他のインフルエンサーと異なるプロモーション内容による影響が考えられるという。

 

3. 結果から得られる実務的含意

本論文から、ファッション業界のソーシャルメディアインフルエンサーを活用したインフルエンサー・マーケティングでのプロモーションにより、女性フォロワーが知覚する購入意図を高める方針のひとつとして、情報発信者の信憑性及びパラソーシャル・インタラクションの考慮による効果が示された。

また、情報発信者の信憑性の向上には身体的魅力と類似性が、PSIの向上には類似性と社会的魅力を考慮することが効果的であった。

一方で、この結果は、ファッションや美容におけるインフルエンサーが女性フォロワーに対して行うマーケティング効果を説明した論文であり、他の業界における製品やサービス、またフォロワーの性差といった観点を考慮すると、この傾向は変化することが予想される。

 

4. インフルエンサー・マーケティングでの活用の視点(紹介者の観点)

企業においては、ソーシャルメディア上でのインフルエンサーを活用した製品・サービス、ブランドのプロモーションを行う場合、対象とするターゲット顧客を明確化し、そのような顧客ターゲットに対して、信憑性やパラソーシャル・インタラクションの観点から、どのようなコンテンツのプロモーション、また、インフルエンサーを活用すればよいのかといった点での、インフルエンサー・マーケティング戦略のデータ収集・分析・効率化が検討できる。

一方で、インフルエンサーにおいては、ターゲット顧客によって情報発信の信憑性やパラソーシャル・インタラクションの形成に関連する要因の影響が変わることが想定されるため、そのプロモーション効果を最大化させるためには、まずクライアント企業が想定する顧客ターゲットを把握する必要がある。

そして、ターゲットとする顧客へ情報を発信する視点で、どのように発信情報の信憑性及びフォロワーとのパラソーシャル関係を向上させたらよいのかといった、コンテンツ作成のためのひとつの方針が得られる。

 

筆者/紹介者
増田央
京都大学経営管理大学院・特定講師/FunMakeアドバイザー